Dミュ初日の思い出

2022年7月8日。この日はミュージカル「DREAM!ing〜Rainy Days〜」(RD)の公演初日である。私はステラボール前の坂をゼエハア言いながら登り、坂があるなんて知らなかったよつれえよと唱えながら劇場を目指していた……


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第一弾の2021年1月。東京公演のチケットを取っていたが、緊急事態宣言が発令され、私はやむなく観劇を断念した。身近に高齢の親戚がおり、とても観劇に出掛けるとは当時言い出せなかったのだ。断腸の思いであったが、千秋楽が配信され、私はそちらで素晴らしい舞台を見ることができた。

第二弾の上演が決まり、今度こそ現地で観劇したい。解禁される情報に胸は高鳴り、メインビジュアルを見つめる日々が続いた。

初日は金曜。見たいが仕事の日だ。無念。翌日の土曜昼公演のチケットを取り、今か今かと待ち侘びて過ごした。

公演も近づいてきたある日、私は出演俳優さんの対談動画を楽しく見ていた。すると第一弾の時、(席は売れているはずなのに)空席があって、舞台上から見えていて…というお話をされていて、私は大きな衝撃を受けた。私の席だと直感的に思った。………もちろんあの時は観劇に行けなかった人がたくさんいて、その席は私の席ではないのだろうけど。私たちが苦しかったように、俳優さんたちも苦しかったのだ。私は行けなかった自分ばかり可哀想で、何も分かっていなかった。

もうこんな思いはしたくない、させたくない。悔いのないように、行ける範囲で劇場に足を運びたい。調べればまだ初日のチケットが買えそうだ。金曜夜…。

私事だが小さな自営業を営んでおり、平日の金曜日は盆と正月以外、何年も必ず仕事をしてきた。しかし………今、人生で、何を差し置いても劇場へ行きたい。

もしも、もしも、初日のみ公演が行われて、その後何かあったら。私や家族の身に何かあったら。行かなかったことを絶対後悔する。

仕事を休む準備に取り掛かる。手紙を作成し、メールを送信し、8日金曜日はお休みです!!!!と会うたびにアピールする。特に何の混乱もなく、何も聞かれることもなく、準備は整った。


初めて仕事を休んで出掛ける金曜日。寝付けなかった上、早起きをしてしまい、コンディションに少々不安がある。

事前に買った5枚の壁Tシャツを並べ、その中から一枚を迷うことなく手に取り、身に纏う。クリーム色(といいつつ現物はからし色みたいだが)に翡翠色の瞳。いつも真っ直ぐなその瞳に射抜かれてきたが、今日は私がその瞳を胸に壁となり馳せ参じるのだ。倒錯する世界。なんという非現実。


18:30公演だというのに16時には品川駅に着く。駅構内でなんか洒落れたレモンパスタみたいなものを食し、気持ちを落ち着かせる。ステラボールの近くにセリアがあり、そこでスリーブやケースを買う。普段定住しているジャンルにはない、久々のランダム要素に身構え、戦闘準備だ。


いざステラボールへ。私にとって初めての劇場だ。いつもイベントに行く際はこの人もいくのかな…という人に後を追うという横着をしているのだが(そして時々全然違う場所へ行く)、今回は100%確定壁が存在しているので安心してついていく。途中思いの外坂道で、ヒイ…ゼエハア…と辛い思いをする。お腹はタプタプだし寝不足だしフラフラだ。坂の結構上まで登り、入場待機列に並ぶ。チケット持った。裏面書いた。よしオッケー。

開場。並んでグッズを買い、座席を確認し、席につく。段差!!!段差がある!!!後列だが見やすく、全く問題ない。ヤッター!!

オペラグラスを首から下げ、舞台のセットでピントを合わせる。ハンカチを握りしめ、その時を、待った。


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本当に生きていて良かったです。DREAM!ingの、東雲特進生たちの青春がこれでもかと存在していました。私が大好きな、ペアを見つめるその眼差しを、生身の役者さんが一切の妥協なく演じてくれて、ああ、これが見たかったんだ、と震えました。脚本、役者、音楽、舞台セットと、全てが組み合わさり、私の人生最高の舞台を見させていただきました。願わくば、ビアンキ由仁の瞳にも、いつかペアの姿が映りますように。

本当に最高の「ゆめ」でした。ゆめで会えたこのことを糧に、これからの日々を、現実を、向き合って生きていこうと思います。

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あまりにも見終わった後に魂が抜けてしまい、しばらく動くことが出来なかった。規制退場が最後で良かったと思う。

本当に魂が抜けてしまい、どのくらいかというと、退場後にサブバッグに入れていたはずの歌舞伎揚がないことに気づき、劇場スタッフの方に座席番号を伝え見に行ってもらったのだが、歌舞伎揚どころかグッズのケースもオペラのケースも全部置いてきていた。サブバッグを下から持ち上げて中身をばら撒いてきたのか?記憶がない。劇場スタッフ様、ご迷惑をおかけしました。お忙しいときに確認ありがとうございました。

終演後、お慕いしている方と会い、品川のマックで感想を語り合う。その際にも私はグッズのケースを派手に落としてしまうという失態を演じ、ずっとアワアワフワフワしていた。しかし、作品についてたくさんお話することができて、本当に幸せな時間を過ごした。アカウントを作って、勇気を出して本当に良かった。

帰り道、十分終電に間に合う時間だったのだが、あまりにフラフラと歩いていたために地下鉄への乗り換えを逃し、東京駅からタクシーで帰宅した。酒を一滴も飲まずに終電を逃したのは人生初の経験だ。まだまだ人生には予想外の新しい経験がたくさんある。

私は4ヶ月前に突然ジャンルに戻った人間なのだが、新しい出会い、たくさんの忘れられない出会いがあった。これからも夏の雨とともに、ずっとずっとRDのことを思い出すだろう。


どうかその時も、そばにDREAM!ingと、胸を熱くさせる新しい展開がありますように。