壁Tシャツを5日間着て過ごした壁の記録

 

 

 2022年夏。ミュージカル「DREAM!ing-Rainy Days-」の上演に合わせて、また原作アプリ4周年の記念として、公式から名言入りの壁Tシャツが発売された。私も5枚ほど買い求め、装着して観劇し、壁となり東雲学園の一般生となり、楽しい日々を過ごした。

 さて舞台も閉幕し、壁Tから少し距離を置いていたが、ふとお盆休みに連日着て過ごそうと思い立った。何か変化や刺激があるかもしれない。また、同居する夫や子にどんな影響があるのか。そして何より、ただただ私が壁Tを着て過ごしたい。以下はその記録である。

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1日目 望月悠馬「わっぜか……!」

 

 まず選んだのは悠馬。DREAM!ingは、望月悠馬の物語から始まる。幕開きに相応しい。悠馬のまっすぐな心に惹かれて、ひたむきな眼差しの先にある景色が見たくて、私はドリミに夢中になったのだ。

 着てみると驚くのが、壁も瞳も全て青で統一されたデザイン。彼の故郷、鹿児島の海と空を思わせる。いてもたってもいられず、自然とラジオ体操を始めてしまったほどだ。体が軽い。シャキシャキ動く。

 私事だが私の母が鹿児島県出身で、私が幼い頃は祖母と話す時だけ鹿児島弁を使っていたので不思議に思っていた。

「わっぜ」「じゃっどん」とよく言っており、鹿児島のことを「かごんま」と呼んでいたが、基本全然聞き取れなかった。……最後に母の鹿児島弁を聞いたのはいつだったろう。悠馬が麻里やおばあちゃんと鹿児島弁で話している場面で、微笑ましく思いながらも私はいつも少しだけ、心のどこかが切なくなる。

 ……なんと1日目からわっぜかセンチメンタルになってしまった。既に身体に影響が出ている。壁Tの効果はすごい。このままあと4日着続けたら、私はどうなってしまうのだろうか。 

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2日目 白華時雨「シチリアの血の海に溺れたいようだ」

 

 朝から時雨Tを着る。何度か着ているが、何故か夫は時雨Tの背中の文言をいたく気に入っており、「シチリアの血の海に……」と台詞を読み上げ、「誰を沈めるの?」などと聞いてくる。とても嬉しそうだ。

 夫は温厚な善人なのだが寡黙で未だによく分からないところがある。それが、この台詞にこんなに食い付くとは。多分、血の海に溺れたいという願望があるのだろう。壁Tが無ければ夫の闇の一面を知ることもなかった。ありがとうドリーミング。

 他にも時雨Tの大きな特徴は、左右の瞳の色が違うことだ。グレー地に浮かぶ、吸い込まれそうな鋭いグリーンの左目。芸術点が1億点のこのデザインを、どうして隠していられたのだろうか。

 普段外出時は量販店のUVカットパーカー的な物を羽織って隠匿しているのだが、この日イトーヨーカドーにて初めて壁を全開にした。そして堂々と胸を張る。

 すごい解放感!!店内にいる全ての人に私を見て欲しい。私の胸に宿る白華時雨の運命を知って欲しい。白華時雨といいます。優しい子です。白い華と書いて〜〜〜白華!!!!!!!

 ……時雨Tを着ている日は家庭円満で、私も普段よりも姿勢が良い。壁Tはどこまでも健康に良い。

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3日目 花房柳「痛い思いをしたい子だけ、おいで」

 

 まだ布地に張りがある、今回初めて着る柳T。背中の文面がどうも気になってしまい、着ることを躊躇っていた。というのも我が家には多感な年頃の子もおり、この文面をどう捉えるか少々不安があったのだ。

 しかし、もし何か、子に深読みしたことを言われたら。私には親として伝えるべきことがある。

 この言葉はイベントストーリー「やなぎH3やめるって」の終盤の発言である。花房柳という厭世観を抱えた面倒な男が、湊の温かさに救われ、悠馬に諭され、仁様に鼓舞されることよって自己肯定に至るという過程から生まれた名台詞だ。歓声と共にグンナイ⭐︎HONEYが流れた瞬間、私は確かにキティとしてあのライブ会場に存在していた。(僕の香り、嗅ぎたいーーー?も候補だったかも!?!?)

 あの臨場感は、イベストだけを読んでも伝わらない。百合や、悠馬の漫画の背景、二人の足跡を知る必要がある。つまり、私の言うべきことはこうだ。

「360Channelで、DREAM!ingフルボイス版メインストーリーを第一部から読むのですーーーーそして、僕等の六等星を聴くのですーーーーお前の母が、人生で一番聴いている曲ですーーーー」

 ところが準備万端なのに子からは何のリアクションも無い。周りをウロチョロしてみたのだが、どうやら文章云々ではなく、私の服に興味がないのだ。これは盲点だった。残念に思いつつ、ツッコミが入るその日まで着続け、いつでもプレゼント版をスタンバイしておこう。 

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4日目 ビアンキ由仁「ムキムキマッチョになるために筋トレ頑張るの!」

 

 関東地方に台風が直撃したこの日。外出できないこんな日も、壁Tのおかげで楽しく過ごしている。

 ところで、通常、私は由仁の壁として活動をしている。由仁を愛し、尊敬しているのだが、いざ自分が本物の壁になると、彼のことを何もわかっていないことに不安になる。父親に憧れ、大きく成長したい為にブカブカの制服を着ていることは判明したが、なぜズボンはあんなに短いのか。切ったのか。なぜ一人だけソックスガーターを付けているのか。なぜ4部であんな行動をとったのか……。

 ガーターを付けている理由はおそらく紳士の嗜みだから、と考えているが、自信がない。そもそも誰もガーターに言及せず、私にだけに見える幻覚なのかと不安が増すばかりだ。

 しかし同じ小道具仲間ーー浅霧巳影に注目しよう。彼は特進生唯一の眼鏡キャラだが、眼鏡について語られているところをあまり見かけない(1stアニバ本等では言及されている)。なぜなら、浅霧巳影は黄緑色の眼鏡をかけているーーーーそれが全て。この世の理なのだ。

 つまり、ビアンキ由仁も、ソックスガーターを装着しているーーーーそれ以上でも以下でもない。私はその事実を享受するのみ。

 ちなみに4部の由仁について、「波紋の音色で五線譜が伸びてく」というDミュRDの歌詞によって少し理解ができた気がしている。雨が降ったことによる人間関係の変化や成長が、由仁にも影響を及ぼしているのだ。

 壁Tを着ることで壁そのものとなり、思考が整理され、作品への理解が深まる。こんなグッズがあるだろうか。改めて発売に感謝している。

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5日目 猿渡喜一「君達はこれからこの東雲学園で、真の絆を得るんだ」

 

 いよいよ壁Tもフィナーレだ。最後を飾るのは喜一。喜一だけメンズサイズを買っており、普段より面積の広い壁にドギマギする。文面も、DREAM!ingの中でも特に好きな言葉だ。彼らは何もせずに真の絆を得た訳ではない。学園生活の中で、心の中を晒け出し、傷つけ合ったり格好悪いところを見せたり、言うまいと胸にしまっていた言葉を打ち明けて絆を深めていったのだ。

  私にとってなせドリーミングが特別なのか。最高の脚本、良いところも悪いところもある、個性豊かな魅力あるキャラクター。それらもあるのだが、一番は彼らの辛い経験、さまざまな感情に共感していることかもしれない。

 私が今まで抱えてきたたくさんの思いが、特進生たちが懸命に生きて、その先の人生を見せてくれることで、肯定されていく。遠く夜空に霞んだ六等星に姿を重ねた彼らのように、私はかつての自分の姿を彼らに重ねている。彼らの幸せが、私の幸せなのだ。

 ドリミに心動かされている人の数だけ、それぞれにドリミへの思いがあるのだろう。私はこの先の人生、ずっとドリーミングが好きだなと思う。

 物思いに耽っていると、夫が喜一の壁を見て血の海で溺れた人?と聞いてきて(何てことを)、ストーリーを繋げようとしてくる。更に何で検索すればそのシャツ出てくる?と質問してきた。5日間壁と暮らすと、コンテンツに興味を持ってもらえることが判明した。これは大きな研究結果ではないだろうか。

 また、非常に穏やかに過ごすことができた5日間だった。私は些細なことでよく怒ってしまうのだが、俯くと0.1秒で自分が壁であることを思い出し、まあそんなに怒ることないか、私壁だもんな、と、アンガーマネジメントに大いに役に立った。壁Tすごくないですか。1枚3480円です。

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 楽しい5日間が終わり、私もまたいつもの日常に戻る。辛いことや困難にぶつかることもあるだろう。

 しかし。幼い日を思い出したいとき。家庭に不和が訪れたとき。キティになって歓声をあげたいとき。作品を考察したいとき。怒りをおさえたいとき。そして、DREAM!ingが好きだと思うとき。いつでも壁Tがそばに居て、寄り添ってくれる。これからの人生で、こんなに心強いことはない。

 ありがとうDREAM!ing。ありがとうRainy Days。これからも私は壁Tを着ます。またたくさんの壁に出会える機会がありますように!