人生初のオンリーオンラインイベントに参加したお母さんの話

 



 表題のお母さんとは私のことである。私は既婚で子育て中だ。どこにでもいる、平凡な普通のお母さんをしている。
 
趣味は宝塚観劇とゲーム。ゲームはほぼコンシューマーしかしない。ソシャゲはいくつかインストールするものの、用事で1日でもログイン出来ずにいると、もう億劫になってしまい触らなくなってしまう、そんなタイプだ。

 2018年、好きな乙女ゲームに出ていた声優さんがメインキャラのアプリをプレイしてみた。最初は私好みのショタが実装されてねえなと文句を言いつつ、軽い気持ちで始めてみたが、ストーリーがあまりにも自分好みで、私のために書かれたの?????と思いながらどんどん話に夢中になっていった。エンタメであり、文学的であり、少年たちの成長を描く、青春物語だ。

 アプリゲームが続いたことのない私が、毎日ログインし、16時の更新を日々楽しみにしていた。生まれて初めてソシャゲイベントを本気で走った。正月には義実家で隙をついてマメに起動し、おもちとおせちを死ぬほど集めるというゲーム内謎作業を必死で行っていた。

 コラボカフェに何度も行き、リアルイベントの為に人生初の埼玉県春日部市に降り立ち、サイン入りポスターを求めて同じ商品を何個も買い、キャラクターの顔面のおまんじゅうをキャラグッズの牛乳ビンポーチに入れ連れ回していた。

 毎日楽しく暮らしていたが、コロナがいよいよ猛威を奮い始め、緊急事態宣言が出る直前の3月30日、アプリの更新停止が告げられた。前日までショップでイベントが開催され、当日も特番が組まれていた中、本当にショックであった。今でも思い出すと指先が冷たくなる。

 その後も作品の展開は続き、運営の誠意をこれ以上ないほど感じていたが、悲しみの方が何百倍も大きくて、私はそれを乗り越えられなかった。情報を追う機会が減り、いつしかあんなに大好きだったコンテンツから離れてしまった。
 その心の穴を埋めるように、元から嗜んでいた宝塚歌劇団若い女の子に溺れ、熱狂的に応援するようになっていったーーーー

 時は流れて2022年。
 楽しく宝塚歌劇のファンをしていたが、年明けから東京兵庫愛知と、相次いでコロナによる公演中止の事態となった。舞台人として公演が出来ないことは何よりも悔しいだろう。責任を感じて泣いている子もいるかもしれない。コロナへの怒りと悲しみで、瞬く間に自分のメンタルも崩してしまった。
 今までずっと我慢してきたのにまだこんなに苦しいの、もう将来に不安しかないよ…ちょっと生きる気持ちが湧いてこず、しんどい日々が続いた。

 そんな折、とある神絵師様のバズりツイートの壁に顔面のアイコン(コンテンツの象徴である)、ツリーから、離れたアプリゲームのことを思い出す。そうか、サービス終了して随分経つなあ、メインストーリー完結したのか。結局読んでないなあ。どうなったんだろう。
 ここで思い出したことも何かの縁。ちょっくら読んでみっか。

………………

  なんということだ。私が大好きだったキャラクター達、見たかった展開、なにもかもがそこにあった。人が人と関わって、誰にも見せなかった本音を引き出し、あるいは曝け出して生きることを描いたストーリーに、私は呆然とするしかない。
 正直、この日を境に生まれ変わった感覚すらある。私はこの完結を見届けずに死ぬところだったのか。危ないところだった。完結まで見てこそ、今までの全てがつながり、また、続いていく彼らの人生を思い描くことができる。この物語に出会えた人生に感謝。私は生きる力を取り戻したのだ!!

 最新の情報を検索する。まず推しを演じていた声優さんが引退されており、あまりのショックに咽び泣いた。推しの可愛いイラストを描いてくれたり愛に溢れた方だった。どうかお元気でいらっしゃいますように。

 検索を続ける。私が三次元の生身の若い女の子にうつつを抜かしている間、まだまだみんな作品が好きで、ジャンルで活動している人がいて、オンリーイベントなども開かれる予定ではないか。私はそこそこ長くオタクみたいなことをしているが、同人誌即売会に行ったことがない。そちらの方面には疎いのだ。

 しかし、今の私は違う。体中の細胞という細胞が、あらゆる供給を求めている。まだまだコロナ禍で子育て中という自分の環境で、オンラインで購入したり交流できたりという仕組みは、有り難すぎて夢のようだ。是非とも一般人として参加してみたい!!!

 大変な時勢の中、また多くのコンテンツが山ほどある中、主催の方や出展してくださる方々に感謝のいいね!を送る日々が続いた。

 生まれて初めて参加するイベント、緊張する。何も作法が分からない。実際の会場であれば、手ぶくろを買いに来た子ギツネのように見よう見まねで現金さえ支払えばお品物を売ってくれそうだが、オンライン開催だ。粗相があったらどうしよう。

 分からなければ調べよう。主催様が大変親切で、参加方法から注意事項まで細かく導いてくれている。パンフレットが事前にダウンロードできたので、早速印刷して隅々まで見る。人生初の同人誌即売会イベントパンフレットだ。嬉しくてずっと手元に置き、枕元に置いて寝た。

 いよいよ当日。5月5日、こどもの日の開催だ。操作に慣れず20回は即退場を繰り返す。なんとかあっちこっちに出かけ、お宝を手に入れていく。隙間時間でのログインなので、怪しい動きをしては消えてしまい申し訳ない。

 一方現実世界では男児を育成中なので、鯉のぼりを鑑賞し、かしわ餅やちまきを食べ、子と5月5日が誕生日の人物の健やかな成長と幸せを祈った。

 そして家族が寝静まった夜ーーーー
 ついに私の時間だ。お母さんから一人の人間に戻る時がきた。平時であれば参加出来なかったであろうイベントに、オンラインだからこそ参加できる奇跡。家から優雅にたくさんのイラストや漫画や小説が見られるのだ!同人誌が、グッズが買えるのだ!!
 悔いのないように情報を精査し、ゆっくりと展示を見ていく。すると、重大な事態に気が付いた。
 
今日23時限りのネットプリントがあるーーーーー
 
 完全に油断していた。もう時間がない。

 行くしかないーーーーーーー
 
 入浴を面倒で後回しにしておいて良かった。推しが可愛らしく描かれたネットプリントを手に入れる為、ファブルになった私は夜の街を自転車でコンビニまで駆けていく。
 辿々しい指で端末を操作する。先ほどまで白紙だったものが、私の行動により推しが印刷された、私だけのために生み出された宝物に変わるのだ!!イリュージョン!!他にもたくさんプリントし、束を大事に鞄にしまった。
 普段訪れることがない、駅の反対側の古いローソン。ここが私のリアルイベント会場だ。即売会に参加した人は、お宝を大事に抱えて家に帰るという。私もその気持ちが分かった。とても幸せだ。

 本当に幸せな1日だった。たくさんのイラスト、小説、グッズを見て、作品の新たな魅力や、作者様方のお人柄にも触れ、私の知らない世界がたくさん広がった。明日は仕事だ。今日のエネルギーを生きる力に転換し、また日々の生活を頑張っていく決意をした。

 イベントは終了したが、オンラインで購入したものは今後徐々に届く。まだまだこれからが本番ともいえよう。新作ミュージカルも予定されており、忙しい日々は続く。本当に出戻って良かった。イベント主催の方、関わってくださった方々、本当にありがとうございました。出来る限りたくさん見たり買ったりしました。私はなんの才能もない凡人ですが、これからも開催の折には一般人として参加させていただく所存でございます。

 あーあ、DREAM!ingに出会えて良かったな!!!!